蒼 穹

 02. 夜になったら暗いよ怖いよ寂しいよ

「そんなことより!! たいへんなんだおじさん!!」

「おじさんやめろ」

「甚平おじさん」

「おじさんは余計だって」

「甚平さん」

「よし。で?」

「たいへんなんだ!! 母さんが家出しちゃった!!」

 少年はゼイゼイとあえぎ、わなわなと震える手を差し出した。丸めて握った紙もいっしょに震えている。

「置手紙か? なになに……『二、三日家を留守にします。困ったことがあったら甚平おじさんに相談してね。 ジョージへ ママより』って。おいこら、『甚平おじさん』てなんだ!!」

 彼、甚平は手紙を思いきりテーブルに叩きつけた。

「そこ!?  問題はそこじゃないでしょ!?  母さんが家出しちゃったんだってば!!」

「あのなあ。『二、三日留守にします』って書いてあるじゃねえか。どこが家出だよ」

「だってー!  父さんは一週間前から出張してるし、母さんまでいなくなっちゃって、僕ひとりきりなんだよ! 冷蔵庫に食べ物はあったけど、でも、夜になったら暗いよ怖いよ寂しいよ!!」

 半泣きで訴える少年をイライラと眺めながら、ふと思い当たる甚平である。

「そういえば……おまえんとこの父ちゃん、一週間ばかり前に俺んとこへ寄ってったっけな。こっちは急ぎの仕事にとりかかったとこだったんで、おう、久しぶり、で追い返しちまったけど」

「話、しなかったの?」

「おう。忙しかったもんで」




Page Top